プロの目⑫ 謝罪会見には英語が役に立つ⁉
事故や不祥事発覚後のいわゆる謝罪会見で、企業(事故や不祥事を起こした当該組織)の方たちがもっとも迷うのが、「責任の取り方」についてでしょう。
先日、模擬記者会見(メディアトレーニング)を実施したとき、こんなことがありました。“商業施設の飲食店で火災が発生し、避難途中のエスカレーターでケガ人が出た”との設定で、記者役が「ケガ人に対して、どう責任を取るのか」と質問したところ、商業施設の幹部社員Nさんはうまく答えられず、黙り込んでしまったのです。
模擬会見の出来栄えを振り返るセッションで、録画でこの箇所を観つつ、なぜ答えに詰またのかを講師がお聞きしたところ、Nさんはこう答えました。
「消防による火災原因調査が始まったばかりのタイミングであり、原因はまだ分かっていない段階です。調査結果によっては、責任はわれわれ施設所有者ではなく、テナントの店舗の側にあるのかもしれません。テナント側に責任があったとすれば、施設側は責任をとるべきなのかよくわからず…」
〈原因がまだわかっていない。ゆえに責任が誰にあるのか不明。ゆえに責任をどうとるのか不明〉
しばしば見かける“因果関係のロジック”ですが、これにとらわれると、謝罪会見で失敗する確率が高まってしまいます。ワナにハマる最大の原因は、日本語の「責任」の意味の曖昧さにあります。
Aさんは〈原因がまだわかっていない → 責任が誰にあるのか不明〉と考えました。ここでの「責任」は、非・瑕疵・不備・責められるべき人物、などの意味になります。
英語でいえば、liable(法的責任がある)、chargeable(起訴されるべき)、accusable(責められるべき)などの単語です。
これらはたしかに原因調査を終えた段階でないと特定できない事項といえます。
けれども、事故直後の会見時点で、原因調査が未了であることは、質問者(記者役)もよくわかっています。そんなタイミングで、「非・瑕疵・不備はだれにあるのか?」「責められるべき人物はだれなのか?」などとは質問していません。
「御社の商業施設に来場し、買い物を楽しんでいたら、そこで発生した火災によって、ケガをした人がいる。商業施設として、そのケガ人に対してどう責任を取るのですか」と質問しているのです。
ここの「責任」は、じつは原因の特定を必要としません。非・瑕疵・不備が誰にあるのか調査中で未定にせよ、商業施設として果たせる「責任」はあります。この意味での「責任」は英語のresponsible(対応すべき責任がある)、accountable(説明すべき責任がある)などの単語になります。
〈非・瑕疵・不備・責められるべき人物〉を意味する概念と、〈対応すべき・説明すべき〉を意味する概念とが、日本語では同じ「責任」という単語で結びついたために、おかしなロジックが生じてしまった。前者の〈法的責任系の責任〉には原因特定が必要ですが、後者の〈社会的責任〉〈説明責任〉は、原因特定より前から発生しているのです。
日本語でひと言「責任」と言われ、同じに見えてしまうものごとが、英語では、複数の単語が用意され、意味の違いが明瞭です。謝罪会見を準備するときには、この違いを意識すると想定質問が作りやすくなるはずです。
(2023/07/15)