危機管理広報

プロの目㉑ K大学は、謝罪会見をすべきでなかったのか?

~ 謝罪会見する/しないは、メリット・デメリットを整理して判断する ~

3月半ばに起きた大学生による不祥事に関して、学生が所属する大学側が謝罪会見を行った。「大学の責任(管理・監督)があまり問われない」と考えられるにも関わらず謝罪会見を行ったことを評価する意見がある一方、「大学は謝罪する必要がないのでは」「学生の自己責任でいいと思うんですけど」と批判的な意見も多く寄せられた。この事例を切り口に、大学が学生や教職員の不祥事に巻き込まれた場合の「記者会見をするか否かの判断軸、考え方」についてまとめてみる。

■「K大学、サークルの迷惑行為(動画)」が炎上に至った理由と大学の広報対応

K大学のスポーツ系サークル 「ABC(仮称)」の60数人が、2024年3月10日~16日に富山県某市で実施した春合宿で、宿泊先の旅館の障子を破る、胴上げをして天井を壊す、食べ物を投げて壁を汚すなどの迷惑行為を行った。その行為が18日にSNSで動画や画像として投稿され、翌日にかけて炎上。

K大学は19日には炎上を把握し、参加学生の一人に聞き取りをしたところ、行為を認めたため、19日夕方にはホームページに「学生の不適切な行為について」とするリリースを掲載した。21日には在学生向けに「学生として節度のある行動について」を載せ、25日に謝罪会見を行ったのである。ちなみに、大学は会見の前日の24日に当該旅館を訪れ謝罪している。

■K大学が記者会見を開き謝罪

 会見に出席した副学長とサークルの顧問は、①被害を受けた旅館へお詫びし、②学生への聞き取り調査を早急に終わらせ、それに基づき厳正な処分を行う、③サークルを無期限活動停止処分とした、などと説明した。

大学は、その時点の聞き取り調査の結果だとして、「障子は学生が部屋に入った時からすでに穴が開いていた。(穴が開いていると)旅館に申し出たところ、合宿が終わったら障子を張り替える予定で、『もし(さらに)穴を空けた場合は言ってほしい。障子をはがす手伝いをしてもらう』という趣旨を説明をされたという。学生はそれをはがすように言われたと勝手に拡大解釈をしてしまった」などと説明した。

一方、記者側は、①聞き取り調査に関して、②大学のサークルに関する管理状況、③飲酒や未成年飲酒の有無、④被害や弁償、などについて質問。大学側は、③について「参加者一人ひとりに聞き取り調査をする。調査委員会を立ち上げ、調べていく」と回答。④について「旅館から同好会宛てに被害額の請求書が来ており、被害額が確定すれば学生が払う予定」などと回答した。

■会見後、メディアはどう伝えたか?

K大サークルの迷惑行為は、ネットメディアはもちろん、朝毎読の全国紙でも報道され、特に会見後は全国紙に加えて、民放各社やNHKも報道する大きなニュースとなった。

報道内容をみると大学が会見で説明した内容が中心となり、大学の対応を批判するようなものはなかった。中でもNHKは、記事の最後に「サークルの学生たちが宿泊した富山県の旅館によりますと、今回の被害について学生から謝罪があり、修理費用が全額支払われたということです」などと、迷惑行為を起こしたことは問題だが、起こした後は、大学側から適切な指導が行われたことを示唆する報道となっている。

■ネットでは「謝罪会見なのに登壇した副学長が笑顔だった」「大学が謝罪会見する必要はない」との声が相次ぐ

一方でネットでは、会見中や会見直後から、「不祥事会見なのに副学長が笑顔だった」「なぜ大学は会見までして責任を負うような真似をしているのか。高校の生徒じゃないんだから。」などの投稿が相次いだ。

先のコメントは、登壇した副学長が苦笑している場面を笑顔と捉えられて、謝罪会見なのに印象が悪い、と受け取られた。後者のコメントは、学生に重い処分を望む声が多数あがっている一方で、大学が会見することや厳罰を求める風潮に疑問を抱く声である。ネットメディアが、専門家(社会学者)の意見として「謝罪会見までせずに、HPや文書で謝罪と処分を発表するレベルだった」などと解説していたが、私もK大学経営陣が登壇する謝罪会見を開催したことで、報道事態が大きくなった面があるとみている。

■危機管理に正解はない。会見のメリット・デメリットを考えて判断する

では、K大は謝罪会見をしなかった方が良かったのか? 筆者は今回の場合、HPにお詫び文を出し広報担当が電話対応したとしても、「責任者自らが説明すべきだ」「会見をしなければ説明責任を果たしたことにならない」などと責められる可能性が高かったと考える。

結局、どうしたらいいのか? 

私は、会見すべきかどうか迷う不祥事が起きた際には、「会見をするメリット・デメリットを考えて(整理して)下さい。その上で、判断して下さい」とアドバイスしている。以下、一般論として、会見のメリット・デメリットをする場合としない場合に分けた表である。

■会見する/しないのメリット・デメリットの整理

会見するメリット会見するデメリット
「重大な事態と認識している」「対応も透明性が高い」と好感を持たれる会見自体がニュースとなり、記事が大きく(役職者に比例)なる
記者の周辺取材がなくなる、少なくなる登壇者が失言したり、不適切な態度が出てしまう可能性がある
組織の対応が評価され、周辺取材も少なくなることで、スクープが出にくい準備に時間やコストがかかる
不祥事の抑止効果/学内引締め効果をもたらす 
会見しないメリット会見しないデメリット
(会見した場合に比べると)記事が小さくなる        社会から「説明責任を果たさない大学。透明性が低い」と批判される
会見で登壇者の失言などの心配がない   記者が周辺取材をする
準備(会場設営・台本・リハーサル等)が 不要         内部告発でスクープが出やすい
 対応が後手に回る

■大学が巻き込まれる不祥事が増えている

下記は、2024年1月~5月の主な大学の不祥事(学生、職員の行動による不祥事)である。自分の大学(組織)で同様の事は起こり得ないか? また仮にあなたが、不祥事が起きた大学の広報担当者であった場合、トップにどのような広報対応を進言するか? 是非考えてみていただければ幸いである。

1月F大、サッカー部員が大麻所持で逮捕
2月H大大学院、助教4人が複数の女子学生にハラスメントで謝罪
3月K大、サークルの迷惑行為(動画/画像で炎上)で謝罪
4月A大、学生が被災地で住居侵入・窃盗で逮捕(大麻取締法違反でも)
5月C大硬式庭球部、SNS炎上動画を謝罪・説明

江良 嘉則